あっちゃこっちゃに上げたのとか落書きを、一纏め
新しいものは日付の色を変更
窓辺に座って雨音を聞くのが好き。
激しい雨がコンクリートを打ち、泡立つように跳ねる様を見るのも。
湿気を含み、冷気を伴った空気に取り巻かれるのも、雨の良さとして甘んじて受け入れる。
……家の中にいる限り。
(20110616)
長く延びた影を追いかけて追いかけて追いかけて、執拗に追いかけてそれでも届かなくて、
蹲ったまま虚空を掴む指先がそれではないと震える。
輝石の欠片は虹色で、どれだって満足できないのを知っているから、求める色には輝いてくれない。
(20110722)
昼を拭いきれず熱を孕んだ冴えた玻璃の光が肌を刺し、體の深くにもぐり込む。
痛みを発した星は瀝青を焦がす陽炎の熱さで体内を巡り、楽になるならいっそこのままでいたいと怠惰なあたしは願う。
疎み、厭い、でもなほ愛さずに居れない愚者を嘲笑いながら。
(20110715)
開け放った窓を南から北に風が流れて行く。
遠くで風鈴が警鐘の様に激しく鳴り響き、樹がしなる音がする。
汗ばんだ身体に心地よい闇の気配を纏う風、丸で熱帯夜を吹き飛ばすように、
終末が叫びをあげ厭う様に身体をすり抜ける。
(20110624)
呪詛や偽りしか紡げないなら
それが君の悲しみをよぶなら
それならいっそ
君のその可憐な唇で
僕のすべてを覆い隠して
沈めて欲しい
(20110617)
夢を前に僕は走り去り
現実を前に立ち竦み
自分を前に嘲笑う
春の櫻は儚く散って憐れみを乞い
未来を怖れる小さな僕を甘く温い雨が打ちすえる
(20110428)
踵の傷は殆ど治ったけれど、空気に触れて布に擦れると嫌な棘を伴ってひりつく。
まだ赤く薄い瘡蓋は、幼子の様な血の鮮烈さを主張し甘く錆びてゆく。
(20110421)
何かに成りたい訳じゃない。
ただ空気のように笑い、溜息のような嘘を吐いていたい。誰も傷つけない代わりに、誰にも踏みにじられる事のない花のように。
ただ風になびいて揺れながら、小ぢんまりと咲いていたいだけ。
(20110219)
苛々して、思った事と反対の事を云ってしまう。
言葉は時に優しくてでも残酷に、私の内に溜まる醜い感情を予期しない形で抉り出す。
そしてその醜さに絶望する。
瞬間の生々しさを持つ言葉に悔いはしない、けれど、失望はする。
やめたくてやめたくて、目を閉ざしても言葉を手放す事が出来ない弱い自分。
(20110217)
現実では何も話さなくても伝わる関係、話さなくても気まずくならない関係が理想だけれど、ネットでは話さないと関係が維持できない。
だから饒舌な振りをして話しをした。
こうして顔を合わせる事になって、本当は無口な私に、貴方は気まずさを感じはしないだろうか。
それだけが心配。
(200110126)
早朝のベランダで煙草をふかしていると「あ、また煙草吸ってる」と、カーテンを開けた隣りに住んでるあいつが俺の事を睨んだ。
「違う、チョコ」
「嘘」
「本当だって」
へらりと笑う。
証拠は、と云う彼女に身を乗り出して唇を押し当てた。
「……!」
「な?」
顔を赤くし、しぶしぶ頷く彼女の唇もチョコに負けず劣らず甘かった。
(20100803)
彼女はもういない。
朝靄霞む教室で光を背にぐるりと見渡すと、彼女の席に、小さな花瓶。
はじけるような笑い声とは対照的に、傷つきやすそうな澄んだ睛、今だって彼女の姿を簡単に思い出せるのに。
際立つ存在感は地味な私の憧れだった。
ばさり、彼女の死を悼むように鳥が羽ばたいた。
(20100713)
家に居辛くて早朝の教室で一人淋しく鳥と戯れていたら、いつの間にか隣の席の男の子が早朝登校するようなって、二人で他愛ない話をしていた。
淋しい思いをしていた当時、彼の存在に随分助けられた事を思い出す。
あれはもう恋だったのかなと、5年経って彼の手を握りながら思った。
(20100713)
貴方はとても優しい。
見ず知らずの私にも優しく接してくれる。
私は貴方の言葉に莫迦みたいにいちいちときめいて、幸せな気分を味わっていた。
その言葉は特別だと思っていたの。
でも違ったのね、誰にでも云うのね。
知らなければよかった。
――相互フォローの残酷さに、胸が痛んだ。
(20100517)
「飽くなき欲求けらくに溺れ」
「あな麗し月華の君」
(20100514)
今頃あの人はもう寝ているだろう、そう考えながら温かいハーブティーを口にする。
安らかな眠りにいざなう香りが口いっぱいに拡がった。
藍色の紗を引いた空を眺めながら楽しい事をひとつだけ思いだす、身体の力を抜く、貴方を思い浮かべる。
――こうして私の不眠の夜は更けていく。
(20100413)
時間を持て余しながら寝られずにいるのは、昼夜を気にする事がなひからではなく、この時間しか余裕を持てなひから。
この時間の為に睡眠時間を削っても惜しくなひとさへ思ふのは、お茶に含まれるカフェインの所為ではなく、貴方がわたくしにかけた呪故。
貴方を想はずにおれぬのです。
(20100407)
椅子に腰掛けた少女の剥き出しの踵は酷く尖っていて、丸で三角形の様だった。
私は両手で湯気の立つカップを包み込むようにして持ち、息を吹きかけながら小鳥の啄ばみの様に少しずつ口を付けていく白い咽喉の嚥下の動きと、
スゥプが食道を伝い胃の腑へと落ちて行く様をぢっと視ていた。
(20100324)
好きで好きで、急に消えた後を必死に追いかけて、発見して、そうして半分だけ見て閉じるあの人の日記。
好きだけど、皮膚を一枚挟んだ向こう側にある筈の、温もりの宿る血肉を強く感じる事が、少しだけ怖い。
(20100305)
誰よりも好きだと云えるのに、この想いは嘘でもなんでもないのに、あの人が私の気持ちに応えてくれることは、多分一生ない。
――私が彼の気持ちを知りながら、応えることがない様に。
そしてあの人が私の気持ちに付け入る様に、私もまた彼の気持ちに付け入って偽物の愛を請うのだ。
(20100302)