告白


空は茜色に染まり
見知らぬ鳥が飛んでゆく
血の様に紅い桜の花弁が
冷え切った體に降りおちる


二度と開かない瞳に つややかな睫毛
朱で紅を引いた唇は 丸で今にも動きだしそうで
思わず触れては その冷たさに手を引いた


何時の頃からか 互いの言葉が伝わらなくなって
癇癪を起こす私に
戸惑った視線を投げかけていた
それでも よかったかも知れない
どうして あの時そう思えなかったんだろう


“すべてが狂っていた”
そう云えば 簡単な事なのかも知れない
けれど、そうは思えなくて
血の流れが、付けた傷の数だけが
想いの証であるかの様に
そう 思い込んでいた


朱い鎖が私達を縛っていた
永遠とも思える 永い時をかけて繰り返されてきた命題
身動きができない事を 嘲うために
切り裂くしか 方法がみつからなかった


どうしても 伝えられない言葉があって
どうしても 知られたくないキモチがあった
心の奥深い処で 魂を歪める程の強さと力強さを持っていた
私が私であるが故に 捨てる事もできなくて
見つめる事もつらい程に


――積み上げたカタチが 音を立てて崩れてゆく


ひざの上に ハラリと髪が落ちて
銀色のナイフに光がはねた
朱に濡れるナイフに 人影が映る
目の前の光を閉ざす声が降ってくる


“君たちは、この命題に苦しむ事などなかったのだ”
絶望が心の中に拡がってゆく
透明な雫が頬を伝った


真実を知った日
云いたい事が 沢山あった
どんなに醜いモノだって 知られたくなくても
それでも
ただ一言だけが云いたかった


もう 貴方に声は伝わらない
私の言葉には 意味がない
でも胸が苦しくて 熱い塊がのどにつかえてる
どうしても聞いて欲しかった
“ただ――”
人影が振り返る
血に濡れた着物に 花弁が降り積もる
何よりも簡単で 難しいこと


“ただ「愛してる」と云いたかった―――”