硝子越しの穹


正月は嫌いだ。
誰もが不思議そうな顔をするけれど。
ひんやりした空気も、静かな昼間も、新しい年も、最初も、みんな嫌い。
うきうきしたりなんて、幸せな気持ちになんてなれない。
嫌な記憶ばかりで悲しい事ばかり。

本当はここには居たくない。
居心地が悪いしつまらない顔しかできないし、他人まで嫌な気持ちにさせてしまう。
それでも私自身に刻まれた記憶は変わらないし、消えもしない。
だから掘り起こさないで欲しいのに。
見えない振りをしていて欲しかったのに。

どうして今更。

未だ、血は流れ続けていたんだ。
言葉は、優しさは、私を傷つけるんだ。
嬉しい筈なのに、喜びたい筈なのに。
憎々しくも、恨めしくも、思ってしまいそうなんだ。
惨めになるだけなんだ。
そんな自分が嫌で嫌で、仕方がないんだ。

色鮮やかに、現れた。
初春を言祝ぐ花を纏った無数の蝶。
奥深くに追いやったはずの感情を、眼前で暴き立てられた。
繭の様に大事に絹糸で包んで仕舞い込んできたこの感情を。
生々しいまでにざわめきたつこの心を。
醜い私自身を。

知らないんじゃない。
忘れた訳でもない。
見たくなかった。
思い出したくなどなかった。

何故今更?

抱きしめてくれるのなら、せめて。
今ではなく。
できればあの頃の私を。