【おまけ】

「だからほら――これ」
 少年が鞄の中から取り出した何かを差し出した。
「なに?」
 それは二枚の紙片。
「N響のニューイヤーコンサートのチケット」
 少女はその紙片を受け取ると、じっと見つめた。
「いいだろう?」
「―――来年まで会わない気なの?」
「そういう訳じゃない」
「じゃあ何で――」
「ほら」
 少年は再び何かを取り出した。
「――?」
「教会で第九を歌う会のチケット」
「………さかえ?」
「否、俺の家は代々仏教なんだが、伯父がクリスチャンで教会をやっているんだ。そこでよければ智明を招待するぞ」
 少女は満面の笑みを浮かべ、少年を見上げた。その表情に少年は凍りつく。
「嬉しい」
 まるで地獄の底を這うような低い声音。
「榮がそこまで私をからかう事に命を懸けていたなんて、知らなかったわ」
「……悪かった」
「――うん」
 大丈夫、少女は小さな声で呟いた。
 少年はその言葉にほっと息を吐き出す。
「な―――んて言うと思ったの?」
 少女は少年の手をぎゅっと握り締めた。
「痛いよ智明」
「痛い?」
「ああ。以外に力が強いんだな」
「うふふ……。だって私、柔道黒帯よ?」
「――!」
 危機感と共に嫌な汗が少年の背中を滑り落ちた。
「俺は平和主義だ」
 焦って余計な言葉を口走る。
「何が?」
「いや、だから――」
「榮の主義主張なんて関係ないわ」
 ザーっと音を立てて血が下へ落ちてゆく。
「悪かった――」
「もう遅いわ。明後日にはメリー苦しみますね? 榮」
 オヤジギャグにも突っ込む余裕がない。
 もう少年には、一刻の猶予もないのだ。早く、少女に機嫌を直してもらわなくては。
「もうしないか………!」


「もうこんな悪い冗談はやめてね? 榮」
「…………」



 少年はこの時、少女の恐ろしさを知った。
 ――血のクリスマス。



 お粗末。








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 面白いかどうかは別にして、エロゲの分岐のような気分。