銀木犀の花はひらひらと舞い落ち、世界を銀色に染めた。
銀木犀
“あなたとわたしは、裏と表”
そういったのは、あの子の方だった。
わたしはあの子が嫌いだった。
ずっと、今でも。そしてこれからも。
大嫌い。
鉛色にひずんだ視界にあの子は天使のように映って、眩しさに眩暈がした。
大好きな物を「好き」と素直に口にする、残酷なまでの真直ぐさが羨ましくも、憎くも思えた。
キラキラとこぼれる太陽のように。
屹度わたしの心は醜いのだろう。
それはまるで衝動のようにわたしを満たす、黒い闇。
まるで呪いの様だ。
わたしを縛る、わたしの鎖。
闇の中を這うわたしに、彼女は邪魔だった。
目障りだった。
あの子だって屹度、同じはず。
それなのに、何故。
わたし達はどれ程違う?
離れたい。彼女の存在をわたしの世界から消して仕舞いたい。
あの無邪気な、素直な、無垢な、わたしを苛み苦しめる、あの黒い瞳から。
涼やかな声から、言葉から。
わたしに向ける笑顔から。
消えて。
彼女の笑顔を、わたしの意識から消してしまいたい。
手も足も髪も爪も。
わたしを更に醜く惨めにさせる、沢山の記憶を。
そうしてわたしを苛む総てを、総てを、総てを!
わたしを殺せる、沢山の言葉を持つ女の子を。
わたしは憎み、愛した。
苦痛は総ての感覚を麻痺させて、言霊は重さを増した。
それでもわたしは彼女が好きで、好きで、好きだった。
わたしにはない綺麗なものを沢山持つ女の子。
喪くしたモノだけで構成される、もう一人のわたし。
だから知ってる。彼女を殺せる唯一の言葉を。
その瞬間は、限りなく、彼女と同じ。
わたしは無垢だった。
あの澄んだ瞳が、暗く沈む瞬間を見たかった。
ただ、それだけ。
でも、彼女を殺すのに、この一言で十分。
「――――――。」
笑顔の凍った彼女とわたしの上に降りそそぐ、沢山の銀木犀。
死の匂いは屹度この花位甘いに違いない。
大好き。
大好き。
大好き。
でも永遠にさようなら。無邪気なあなた。