call for.

“ルルルル ルルルル”

電話が鳴る
雑踏に紛れ貴方の胸で鳴った
携帯の着信音が耳を刺す

色気のない初期設定そのままの
ただ「鳴るだけ」の電子音は
本当は誰の物か解る筈のない
極ありふれた音だったけれど

あたしはいつも直感的に
ソレが貴方の携帯だと気づいてしまう


貴方はぎゅっと握り締めたあたしの手をそっけなく外し
胸ポケットに突っ込んだ携帯を引っ張り出すと
断りも無く確認すらも無く
通話ボタンを押してしまう

その瞬間
あたしは彼の世界から切り離される

最初は気を使って
聴かないようにしていた会話の中身は
今では聴かなくても
おおよそ判る様になってしまった


その浅ましさに
眩暈すら覚えながら
何10キロも離れた処にいるであろう
その声の主に思いを馳せる

雑踏を超えて辿り着く声
あたしの耳にも残る声
儚く澄んだ彼女の声

どれだけの重さをもって
貴方に響いているのだろう
あたしには見当も付かない

春よりも近くなったはずの
あたしたちの距離
遠くにいながら近くに響く彼女の言葉は
あたしからいつも貴方を遠ざける

あたしはいつになったら
貴方に近づけるのかな
絶望よりも泣くよりも先に
きっとあたしは挫けてしまうだろう